0015_外国人材かAIか。中小企業が今考えるべき本当の人手不足対策とは

AIが進化しているのに、なぜ人手不足は解消しないのか

近年、生成AIの普及により、文章作成、翻訳、情報整理、問い合わせ対応など、これまで人が行っていた業務の一部を短時間で処理できるようになりました。
AIを活用して業務を効率化し、人件費や採用負担を抑えたいと考える企業も増えています。

その一方で、日本の人手不足は解消していません。
2025年10月末時点の外国人労働者数は約260万人で、届出が義務化された2007年以降の過去最多となりました。
外国人を雇用する事業所数も37万所に達しています。

また、2025年末の在留外国人数は約413万人となり、初めて400万人を超えました。
特定技能の在留者も39万人まで増えています。

AIの利用が広がる一方で、外国人材の就労も増えている。
この二つの動きは矛盾しているように見えます。

しかし実際には、AIが得意とする仕事と、人手不足が深刻な仕事が必ずしも同じではありません。
AIが進化しても人手不足が解消しない理由は、今のところ、AIが人の仕事を丸ごと引き受けるのではなく、仕事に含まれる一部の業務を支援する技術だからです。

AIが置き換えるのは「職業」ではなく「業務」

「AIによって仕事がなくなる」という話題では、職業単位で将来が語られがちです。
しかし企業の実務では、一つの職業の中に性質の異なるさまざまな業務があります。

例えば、宿泊施設では予約内容の整理、案内文の翻訳、問い合わせへの定型回答などをAIで効率化できます。
一方で、客室の清掃、設備の確認、困っている利用客への対応まで自動化できるとは限りません。

外食業でも、予約受付や注文、シフト案の作成はデジタル化できますが、調理、衛生管理、料理の提供、混雑時の臨機応変な対応は残ります。
介護現場においても、記録や情報整理をAIで補助できても、利用者の状態を見ながら行う身体介助や声掛けまで、そのまま置き換えられるわけではありません。

経営者が考えるべきなのは、「この職種をAIに置き換えられるか」ではありません。
重要なのは、「この仕事を構成する業務のうち、何をAIに任せ、何を人が担うべきか」を整理することだと考えます。

人手不足対策は「省人化」と「人材確保」の両輪で考える

人手不足というと、採用人数を増やすことに意識が向きます。
しかし、人を増やすだけで業務の進め方が変わらなければ、教育や管理の負担も増えます。
反対に、AIを導入しても、必要な現場人材を確保できなければ事業を継続できません。

厚生労働省は、人手不足への対応には労働参加だけでなく、一人当たりのアウトプットを高めることが欠かせず、ロボット、AI、ICTの活用と人材育成を進める必要があるとしています。

特定技能制度も、生産性向上や国内人材確保に取り組んだうえで、なお人材確保が困難な産業分野において、一定の専門性や技能を持つ外国人材を受け入れる仕組みです。

つまり必要なのは、AIと外国人材のどちらかを選ぶことではありません。
AIによって業務量や負担を減らし、それでも人が必要な業務に適切な人材を配置することです。

AIと外国人材の役割分担

AIが担いやすい領域AIと人が協働する領域人が価値を発揮する領域
情報整理・文書作成多言語マニュアルの整備接客・介護・清掃・調理
翻訳・定型案内教育内容の個別化例外への対応と状況判断
予約・シフト・記録の補助顧客対応の下準備信頼関係の構築
データ集計・傾向把握作業指示・安全確認の支援チームの育成と現場統率
反復的な事務作業現場改善の見える化文化や生活背景への配慮

AIによって価値が上がる仕事とは

AIの普及によって価値が下がる仕事が注目される一方で、AIによって価値が上がる仕事もあります。
定型的な処理をAIが補助するほど、人には例外への対応、関係者との調整、相手の状況を踏まえた判断が求められます。
特に現場では、想定外の出来事に対応しながら、品質と安全を守る仕事の重要性が高まります。

接客の価値が上がる

予約や注文が自動化されると、従業員はすべての利用客に同じ説明を繰り返す必要がなくなります。
その分、困っている人への案内、個別の要望への対応、トラブル時の調整などに集中できます。
自動化されたサービスが増えるほど、人による対応は企業の印象を左右する重要な接点になります。
外国人材が持つ言語力や異なる生活文化への理解も、接客品質を高める強みとして活かせる可能性があります。

現場リーダーの価値が上がる

AIは情報の整理や改善案の提示には役立ちますが、異なる経験や考え方を持つメンバーをまとめる役割は、現場リーダーが担います。
外国人材を含む職場では、指示の出し方を工夫し、理解度を確認し、相談しやすい関係をつくる必要があります。
今後は、自分自身が作業できることに加えて、他者を育て、チームの力を引き出せる人材がさらに重要になります。

教育担当者の価値が上がる

AIを使えば、マニュアルの多言語化や研修資料の原案作成は効率化できます。
しかし、資料を渡すだけで人材が育つわけではありません。
理解できていない部分を把握し、言葉や実演を使い分け、その人に合った教え方を考えるのは教育担当者です。
AIによって教材作成の負担が軽くなるほど、教育担当者は対話、実技指導、習熟確認といった本質的な育成に集中できます。

人事担当者の価値が上がる

求人票の作成、応募情報の整理、面接日程の調整などは、AIによる効率化が進みやすい業務です。
一方で、どのような人材を採用するか、入社後にどのような役割を担ってもらうか、どうすれば長く活躍できるかという判断は、企業の人材戦略そのものです。
採用事務が効率化されれば、人事担当者には、受入れ体制の設計、現場との調整、育成、定着支援といった役割がより強く求められます。

AI導入前に、仕事の棚卸しが必要

中小企業が最初に行うべきことは、高価なシステムの導入ではありません。
現在の業務を整理し、どこに時間と負担が集中しているかを確認することです。

まず、毎日または毎月繰り返している定型業務を洗い出します。
次に、その中から判断をあまり必要としない業務をAIやデジタルツールで補助できないか検討します。
そして、空いた時間を顧客対応、教育、安全管理、品質向上など、人が価値を生み出す仕事へ振り向けます。

外国人材を採用する場合も同じです。
「人が足りないから採用する」だけではなく、担当する業務、必要な技能、教育方法、配置後の役割をあらかじめ整理することが大切です。

AI導入と外国人材採用を別々に進めるのではなく、一つの業務設計として考えることで、採用後のミスマッチや現場負担を抑えやすくなります。

本当に不足しているのは「人数」だけではない

企業が必要としているのは、単なる人数ではありません。
事業を継続し、顧客に価値を届ける力です。

人を増やしても仕事の進め方に無駄が多ければ、人手不足感は残ります。
AIを導入しても、現場で運用する人や、顧客と向き合う人がいなければ成果にはつながりません。

AIは業務の負担を減らし、生産性を高める手段です。
外国人材は現場をともに支える人材です。
教育は一人ひとりの力を引き出し、定着支援はその力を長期的な企業価値へ変えていきます。

これらを個別の対策として扱うのではなく、一つの人材戦略として設計する視点が必要です。

外国人材かAIかではなく、外国人材とAIへ

今後の中小企業に求められるのは、すべてを自動化することでも、採用人数だけを増やすことでもありません。

AIが担う業務、人とAIが協働する業務、人が責任を持って担う業務を整理し、その境界を継続的に見直すことが重要です。
外国人材にとっても、分かりにくい文書の多言語化、研修内容の整理、定型業務の簡素化が進めば、仕事を理解しやすくなります。
ただし、安心して相談できる関係や、成長を支える教育、職場での信頼は、AIだけではつくれません。
AIと外国人材は競争相手ではありません。

AIを活用して業務の無駄や負担を減らし、外国人材を含む一人ひとりが、人にしかできない仕事で力を発揮できる環境を整える。
それが、中小企業にとって現実的で持続可能な人手不足対策ではないでしょうか。

よくある質問

Q.AIを導入すれば、外国人材の採用は必要なくなりますか?

一概にはいえません。
文書作成や情報整理などを効率化できても、接客、介護、清掃、調理、製造、運送など、人の作業や判断が必要な業務は残ります。
まずは業務を分解し、AI化できる部分と人が担う部分を整理することが重要です。

Q.外国人材の教育にAIを利用できますか?

翻訳、教材の原案作成、理解度に応じた練習問題の作成などに活用できる可能性があります。
ただし、翻訳や生成内容には誤りが含まれる場合があるため、外国語使用者や現場担当者による確認が必要です。

Q.中小企業はAIと外国人採用のどちらから始めるべきですか?

最初に行うべきことは業務の棚卸しです。
定型業務の効率化と、それでも不足する技能や人員を把握したうえで、AI導入と人材採用を組み合わせます。

Q.AIを使って外国人材を評価してもよいですか?

AIの出力だけを採用、配置、処遇などの重要な判断に使用することは避けるべきです。
入力情報の正確性、評価基準の公平性、個人情報の取扱いを確認し、最終判断は責任者が行う必要があると考えます。

まとめ

免責
※本記事は執筆時点で公表されている法令、制度、行政機関等の情報をもとに作成しています。制度内容や運用は変更される場合がありますので、最新情報は出入国在留管理庁、厚生労働省その他関係機関の公表情報をご確認ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別案件に対する法的助言、行政手続きの代理、その他専門的判断を提供するものではありません。実際の手続きや制度運用にあたっては、行政書士、社会保険労務士その他の専門家へご相談ください。