クサンバの塩

食全般、なんでも美味しくいただく質で特にこだわりがない。とはいうものの、ここ数年常備している塩がある。

それは、バリ島東部に位置する漁村クサンバで作られている天日塩だ。

料理するときの調味料だが、最も他の塩との違いを感じさせてくれたのが、ゆで卵につけて食べるとき。
ゆで卵好きにとって至福の味わいだ。いや、まさに塩が主役といっても良いだろう。

天日塩の製造工程はいたってシンプルではあるが、かなりの手間暇を要する。

まず、海水を砂地に流し入れて太陽熱と風によって水分を蒸発させる。
その塩分を含んだ砂に海水を加えてろ過して濃い塩水を作る。
それをまた砂地に流し入れて水分を蒸発させ、さらに濃い塩水を作る。

これを何度も繰り返す。

最後に塩分濃度の高い塩水を天日干して水分を蒸発させて結晶化した塩になる。
まさに自然の力を使用して塩を採る作業だ。

クサンバは塩田の村として知られている。
数年前、友人に案内してもらい初めて訪ねた。

黒砂の浜辺では、ヤシの木の繊維から作ったヤシ袋で海水をくみ取り、天秤棒を担いで運び、砂地に海水を撒いている逞しい女性たちの姿があった。
海水を撒いた砂地が塩田を造っていく。

かなりの重労働にちがいないが、彼女たちはごく自然に何度も何度も海水をくみ取り、運び、撒く、という作業を繰り返していた。

塩田造り作業を行っているのは2、3人。
他に数人の女性が、塩田手前の簡易風小屋に気だるそうに腰かけている。
海水運搬工程の交換要員に違いない。
その小屋は、採った天日塩の直売所でもあった。

小屋の隣には、塩分を含んだ砂をろ過する素朴な機器らしきものも設置されていた。
小屋も設備もこじんまりとしたもので、クサンバの浜辺にはこのような規模の小屋が数カ所、あるいは十数カ所あるのかもしれない。

直売所をのぞいてみた。

勧められるままに塩をひとつまみ。
あら塩というか、一見しただけで塩の粒が大きいのがわかる。
ほんの少量舌先に乗せてみる。甘い!
いや、もちろん「塩の味」だ。
だが、塩味の前に甘さを感じ、そのあとおだやかな塩味が広がり、最後に海の香りが鼻に抜ける。
未経験の味わいと風味。

その塩をごく普通のビニール袋にびっしりと詰めて売っている。
150グラムくらい?1袋60円位。
5袋購入した。
他に小さなヤシ袋に塩の入ったビニール袋を入れ、いかにもおみやげ仕様のものも売られている。
なかなか愛嬌があり、素朴な感じで好ましい。
こちらもお土産用に買った。

そこで、面白い器を見つけた。
直径10㎝くらいで椰子の実で作られたている。
ころんとした形で、しっくりと手に収まる愛らしい器だ。
素朴だが丁寧な作り。
くるくる回すと蓋がちゃんと締まるので、塩を湿気からも乾燥からも守ってくれている。
クサンバの塩は言うまでもなく、この器もかなり気に入っている。

昨年、クサンバの塩の在庫補充のためいつもの直売所を訪れたとき、友人から興味深い話を聞いた。
クサンバ付近の海域は3つの海流がぶつかり合う地点で、海水の塩分濃度が高い。
加えて海流がぶつかり合うことにより海洋深層水が上昇してミネラルたっぷりの海水となる。

その結果、採れた塩も同様に多くのミネラルを含んでいる、という研究がすでになされているとか。

確かめるためネットで検索したところ、確かにクサンバの海域はミネラル豊富な南極からの海洋深層水が沸き上がる地形、という記述があった。
また、クサンバに天日干しの方法を伝えたのは日本だという記載もあった。
作業工程の画像などもあり、何事にも深く携わる方々に尊敬の念を禁じ得ない。

メルカリや楽天市場で普通にクサンバの塩が販売されている。
価格は地元で購入するより、かなり高額だが輸送費等を考えれば致し方ないだろう。
懸念があるとすれば確かに「クサンバの塩」かどうかということ。

興味が湧いた方は、入手して味わってみてはいかがでしょう。
本物の「クサンバの塩」であれば、必ずご満足いただけることを保証いたします。