はじめに
特定技能外国人を受け入れる企業にとって、「登録支援機関」の活用は制度上の重要なポイントです。
しかし、実際に検討を始めると、
- どんな支援をしてくれるのか?
- 費用はどれくらいかかるのか?
- どこまで任せられるのか?
といった疑問が出てくることも多いのではないでしょうか。
登録支援機関のサービスに関しては 第5回:登録支援機関とは?選び方と活用のポイント で触れていますので、参照していただき、第9回では主に受入れに関する各種費用をまとめていきます。
この記事では、受け入れに関する諸費用を登録支援機関のサービスを含めて、総論的にわかりやすく解説します。
登録支援機関を利用しよう
登録支援機関は、企業に代わって「特定技能外国人への支援計画」を実施するために、出入国在留管理庁に登録された民間機関で、企業に代わって支援計画の全部を実施してくれます。換言すると、支援の一部を登録支援機関に任せることはできません。
企業が自社で支援業務を行うことも可能ですが、条件を満たしていない場合は、登録支援機関への委託が必要になります。
また、登録支援機関を利用することで、スムーズな制度運用、特定技能外国人・社員双方のストレス軽減が期待できます。それどころか、より以上の効果発現で社内環境の改善や外国人を含めた全ての社員の定着率の向上効果に結びつくかもしれません。
費用は重要ですが、外国人材が貴社に至るまでの経緯や在留時の対応力といった部分にも注意してください。
登録支援機関が提供する主なサービス
登録支援機関が行う支援は、制度上「義務的支援」と「任意的支援」に分かれています。
義務的支援10項目
- 事前ガイダンス(生活・業務に関する説明)
雇用契約締結後、在留資格認定証明書交付申請前又は在留資格変更許可申請前に、労働条件・活動内容・入国手続・保証金徴収の有無等について、対面・テレビ電話等で説明 - 出入国する際の送迎
・入国時に空港等と事業所又は住居への送迎
・帰国時に空港の保安検査場までの送迎・同行 - 住居確保・生活に必要な契約支援
・連帯保証人になる・社宅を提供する等
・銀行口座等の開設・携帯電話やライフラインの契約等を案内・各手続の補助 - 生活オリエンテーション
円滑に社会生活を営めるよう日本のルールやマナー、公共機関の利用方法や連絡先、災害時の対応等の説明 - 公的手続きへの同行
必要に応じ住居地・社会保障・税などの手続の同行、書類作成の補助 - 日本語学習の機会の提供
日本語教室等の入学案内、日本語学習教材の情報提供等 - 相談・苦情への対応
職場や生活上の相談・苦情等について、外国人が十分に理解することができる言語での対応、内容に応じた必要な助言、指導等 - 日本人との交流促進
自治会等の地域住民との交流の場、地域のお祭りなどの行事の案内や参加の補助等 - 転職支援(人員整理等の場合)
受入れ側の都合により雇用契約を解除する場合の転職先を探す手伝いや、推薦状の作成等に加え、求職活動を行うための有給休暇の付与や必要な行政手続の情報の提供 - 定期的な面談・行政機関への通報
支援責任者等が外国人及びその上司等と定期的(3か月に1回以上)に面談し、労働基準法違反等があれば通報
任意的支援(機関によって異なる)
- 就労開始前の相談対応
- 一時帰国等の送迎対応
- 雇用契約終了後の次の行動までのフォロー
※任意的支援は機関ごとに異なるため、契約前に確認することが大切です。
登録支援機関の費用構造
登録支援機関への委託費用は、支援内容や契約形態によって異なります。
ここでは、項目ごとに整理してご紹介します。
初期費用(契約時・採用時)💰
- 人材紹介料:20~80万円程度
在留資格認定・変更手続き料込みの場合もあり
自社で募集する場合は不要(ただし求人広告費などが発生する可能性あり) - 送り出し機関費用:20~30万円程度
人材紹介料と込みの場合有り
月給の1か月程度 - 在留資格関連費用:10~20万円程度
内部作成か外部作成かで金額に違いが出る - 航空券等移動費:5~20万円程度
送り出し国や受け入れ地による
季節によっても大きく違う - 入社前健診:2万円程度
国内外の受診機関による - 住居、住居周辺費用:10~40万円程度
住居や家具、生活雑貨や自転車等通勤手段
海外採用の場合は初期支援が必要になるケースが多い
国内採用で既に住居がある場合は不要
月額費用(雇用期間中の定額費用)💰
- 登録支援機関への支援費用:月額1人あたり1.5~4万円程度
規模や地域等で変化
登録支援機関の対応力に応じた費用 - 特定技能外国人への給与等:月額1人あたり20~40万円程度
地域・業種・職種で変化 - 各協議会費用:月換算0~5万円程度
多くの協議会は不要
随時費用(タイミングで発生する費用)
- 在留資格更新費用:10~20万円程度
内部作成か外部作成かで金額に違いが出る
自社で対応することも可能ですが、専門知識が必要です - 渡航費用(航空券代等):10〜40万円程度
現地面接のための企業側渡航費
宿泊費や食費等の諸費用
国・時期・場所により変動
国内採用と海外採用での違い
| 費用項目 | 海外採用 | 国内採用 |
|---|---|---|
| 人材紹介料 | 発生する | 自社採用なら不要 |
| 登録支援費用 | 発生する | 発生する |
| 在留資格申請費用 | 発生する | 発生する |
| 住居・家具費用 | 発生する | 既存住居があれば不要 |
| 渡航費用 | 発生する | 引越代などが発生する場合あり |
※国内採用でも、転居が必要な場合は住居費用が発生することがあります。
特定技能の受け入れに関する費用を個別解説
人材紹介料
いわゆる採用費用です。
人材紹介会社または人材紹介機能をもつ登録支援機関が介在する場合に発生する費用です。一般的な人材紹介では想定年収に料率を掛ける方法が多く採用されていますが、特定技能の場合、費用過多になり制度導入のハードルになることもあるので、定額制のところが多いです。
また、送り出し機関に支払う費用と合算しているケースもあります。
人材紹介会社が介在している場合のメリットは、送り出し機関等の教育機関や特定技能外国人候補者の確認が取れていることが多く、第三者のフィルターを通すことで採用ミスが軽減されます。
短期離職時の補償がある場合が多く、費用の返金や事後処理の対応がスムーズになるケースが多いと考えられます。
直接募集・雇用することも可能ですが、性格・経験・言語・習慣・宗教・道徳・倫理等々を理解しながら直接採用するのはなかなか難しいでしょう。
送り出し機関費用
出身国の送り出し機関に支払われる費用になります。
人材紹介費用と合算しているケースもあります。
送り出し機関では、募集、選抜、入国前教育、ビザ申請サポートといった多岐に亘る業務があります。
送り出し国毎に二国間協定があり、それに基づいた手続きや流れがあります。金額は送り出し機関によって様々ですが、概ね給与額の1か月分程度です。
在留資格関連費用・在留資格更新費用
在留資格の手続きは非常に重要かつ書類作成が難しいものです。
国内外問わず、採用が決まった後に認定申請(外国から新規)、変更申請(国内で資格変更)が必要になります。
多くの場合、在留期間中に在留資格の更新が必要になります。
特定技能1号は通算5年が上限で、1年、6か月、4か月の期間で更新が必要になります。一方、「2号」は在留期間に制限がなく、3年、1年、または6か月のいずれかで更新手続きを行い、更新を繰り返すことで無期限に在留でき、永続的な就労が可能です。
手続きのタイミングは在留期間の満了約3か月前から開始できます。
膨大な資料の準備・作成が必要で、行政書士や登録支援機関等に委託をするのが一般的です。
航空券等移動費、住居、住居周辺費用
航空券代等の移動費用は、二国間協定で企業負担と決まっているベトナム、カンボジア、フィリピン、ミャンマー、ネパールなどを除き、基本的には本人負担です。
しかしながら実際は企業負担とするのが、採用難易度の低減やその後の定着率の向上に寄与すると考えられています。
負担=リスクは企業も個人も同じで、ましてや若い人材が異国で頑張ろうとした際の負担は少ない方が魅力的でしょう。
家賃や家財道具も基本的には本人負担ですが、何かしらのフォローをすることで、採用難易度の低減やその後の定着率の向上が期待できます。
例えば、
・敷金・礼金・保証金・火災保険等を企業負担にする。
・連帯保証人になる。
・企業が物件の借り上げをして有償または無償で賃貸する(有償の場合、収益を得てはダメ)
・家賃の半額を企業負担にする。
・入国から6ヶ月の家賃を企業負担にする。
・冷蔵庫、洗濯機、エアコン、テーブル、椅子といった家財道具の一部を企業負担(無償貸与)する
登録支援機関への支援費用
特定技能外国人を受け入れるには法令で定められた支援が必要です。
自社で対応することも可能ですが、中小企業で法令に合った支援をするのは非常に難しく、登録支援機関に委託するの中小企業は多いです。
登録支援機関は出入国在留管理庁長官の許可・登録を受けている組織です。
登録支援機関の登録簿は出入国在留管理庁のHPにあります。
登録支援機関に支払う委託費用は登録支援機関が支援を行うための体制維持にかかる諸費用が主になるので、その運営体制により幅があります。高ければ良い支援をしてくれる、安ければロクな支援は受けられない、とは金額では一概には言えませんが、支援業務は労働集約的なものが多いため、人件費に直結するものと考えられます。
安いと十分な人材が見込めなかったり対応が遅かったりすることもあるでしょう。
登録支援機関の内情を第三者的に知り得ることは難しいので選択は難しくなります。
給与等
特定技能外国人へ支払う給与は当然必要になります。
日本人と同等以上の給与と福利厚生でないといけないことは理解いただいていることと思います。
相場は業種やエリアによって異なります。日本人の採用と同じ考えで良いと思います。
安ければ来てくれませんし、来てくれたとしても他社に転職してしまう可能性も高くなります。
寮や社宅、日本語や技術の教育、社風や将来性等々、打ち出せる魅力と兼ね合わせて決めると良いでしょう。
各協議会費用
特定技能外国人を雇受け入れるには、その業種毎(分野別)の協議会に加入する必要があります。
ほとんどの協議会は無料ですが、建設業のみ一般社団法人建設技能人材機構(JAC)に加入時に年会費と受入負担金が必要になります。
JAC年会費:年会費:24万円(登録支援機関:3~24万円)
JAC受入負担金(1号1人当たり):12,500円/月(年額15万円)
参考:一般社団法人建設技能人材機構
渡航費用(航空券代等)
国外から採用する場合に発生する可能性のある費用で、国内採用であれば発生しません。
渡航に要する航空券代や移動費は企業が負担する必要はありませんが、採用を効果的に進めたい場合の一つの手段になり得ます。
登録支援機関との契約時の注意点
- 支援内容が明確に記載されているか
- 月額費用に追加料金が発生するかどうか
- 退職保証や返金規定があるか
- 外国人スタッフの母国語対応が可能か
- 支援機関と人材紹介会社が別でも契約可能か
まとめ
登録支援機関は、特定技能外国人の受け入れを支える重要なパートナーです。
費用は決して安くはありませんが、制度に則った支援を行うことで、特定技能外国人の満足度が上がり、結果として採用数が増加したり定着率が向上します。
まず目指したいのは定着率です!
費用だけでなく「支援の質」や「自社との相性」も含めて、慎重に検討することが大切です。