市場で

旅先で地元の市場をのぞいてみる。

野菜果物肉魚菓子調味料など食にかかわるものだけ商う市場が多いが、衣食住すべて揃っている大規模な市場も決して少なくない。
旅先故、実際に買い物することはそれほど多くはない。

たまに季節の果物や目についた地元の菓子を買い込み、宿泊先で食するくらいだ。
しかし、市場をぶらりぶらり歩き回っていると、その土地の生活が見えてくるようで面白い。

目だけでなく耳からも鼻からも肌からも、その土地の騒めき・匂い・空気が伝わってくる。

今回、立寄ったジョグジャカルタの市場は、大規模タイプだ。
大通りから脇道に逸れところにある3階建てくらいの建物だった。
3階建て“くらい”というのは、継ぎ足し継ぎ足しで増築したような外見だから。
場所によっては2階建てのようでもあり、半地下や中二階のフロアもあるので、はっきりと何階建てとは言い切れない。
実際、市場の2階を歩いていたはずなのに、いつも間に3階にいる!といった状況だ。

市場はごく小さなお店の寄せ集めでもある。
売り物ごとにまとまっていて、野菜を並べたお店が何軒も連なっていたかと思うと、次は果物、魚、肉、よくわからないもの、と続く。
とても専門性が高いといえないこともない。
衣類や靴、鞄などは階が異なるか、ちょっと距離をとっているようだ。

何を専門に扱っているのかよくわからないお店で、目に留まったのは、透明なプラスチックケースに入っている5、6個のパック。
おもわず手に取る。

なんだろう、乾燥させた何種類かの木片らしきものと半透明の黄色の塊。

お店のおばさんに尋ねるとお茶だという。
黄色い塊はなんと氷砂糖、黄色は果物のエキスを混ぜているそうだ。
お好みでお茶を甘くしたいときに入れる。

作り方を教えてもらい購入した。
値段は1ケース6パック入りで約300円。

帰国後、おばさんに教えてもらった手順を思い出しながら作ってみる。
まず最初に、乾燥させた木片のようなモノをざあ~っと水洗いする。
仔細に見ると、木片以外に乾燥させたショウガらしきものが数片入っている。
他に植物の茎のようなものも。

次に鍋に水とそれらを入れて火にかける。
沸騰する直前に火を止めてしばらく放置する。

鍋を覗き込む。

予想外の色にかなり驚いた。
その濃いローズピンクの液体を茶漉しで木片・ショウガ片などを取り除き、グラスに注いで完成だ。
甘みが欲しかったら黄氷砂糖を入れても良い。

恐る恐るお茶を一口飲んでみる。
予想通り、最初にショウガのピリリとした刺激を感じた。
嫌な刺激ではない。「滋味深い」という言葉が浮かんだ。

次に感じたのはハーブティーのような風味で、意外なほど飲みやすい。
黄氷砂糖を入れたものも試してみたら、やさしい甘みでとても美味しい。
黄氷砂糖のかけらを口に含んでみる。

ほんのりと甘く、簡単にはかみ砕けそうもない硬さだ。
ほんの束の間、一片の氷砂糖は消えてしまった。

インドネシアは、ジャワコーヒーをはじめマンデリン、トラジャ、スマトラなど世界第4位のコーヒー豆の産地である。
また、世界有数の紅茶大国でもある。
紅茶以外にジャスミン茶、緑茶、烏龍茶、白茶などがよく飲まれている。
都市部を離れると、広大な茶畑をよく目にする。
山間部には、段々畑の茶畑も多い。
市場で見つけたお茶は、茶葉を使ったものではないが、お茶のカテゴリーに含めても良いだろう。

インドネシアのお茶の世界をもっと探ってみるのも面白いかもしれない。