第9回|外国人技能実習制度でよくあるトラブルと対応策|失踪・労働条件・生活環境の予防・改善と対処

はじめに

近年、日本の中小企業において外国人技能実習生の受け入れが増加しています。人手不足の解消や技術の国際貢献という観点から注目される制度ですが、実際の現場では「言語の壁」「文化の違い」「制度理解の不足」などにより、さまざまなトラブルが発生しています。
本コラムでは、よくあるトラブル事例とその対応方法、予防策について解説します

よくあるトラブル事例

コミュニケーションの不一致

言語の壁により、業務指示が正しく伝わらず、作業ミスや不満が生じることがあります。
例えば、「もっと早く作業して」と言っただけのつもりが、実習生には「怒られている」と受け取られるケースもあります。

対応策:
「やさしい日本語」や翻訳アプリの活用で不明な用語を軽減
・注意や指示に理由等の説明を加え、ボタンの掛け違いを軽減
・定期的な通訳者の配置
・非言語的なコミュニケーション(ジェスチャー、図解)の導入・工夫

労働条件に関する誤解

「残業代が支払われない」「休日が少ない」などの不満が、説明不足や制度理解不足から生じることがあります。実習生は労働者としての権利も持っており、労働基準法が適用されます。

対応策:
・雇用契約書や就業規則等の多言語化
・労働条件通知書の説明会の実施
・監理団体との連携による定期確認

寮や生活環境の不満

「寮が狭い」「食事が合わない」「インターネットが使えない」など、生活面での不満がトラブルの火種になることもあります。

対応策:
・入居前の寮説明と写真提示
・寮の周辺地図の作成(コンビニ、商業施設、駅、銀行等)
・生活用品の準備支援(入寮時に困らない程度に一通りを用意して説明書も付ける)
・Wi-Fi環境の整備や相談対応者の設置

実習内容の不一致

「契約では○○の作業と聞いていたが、実際は違う業務をしている」といった訴えが、制度違反につながる可能性があります。

対応策:
・実習計画書の内容を明確に説明
・業務変更時は監理団体と相談し、計画変更手続きを行う
・実習生の声を定期的にヒアリング

失踪・帰国希望

実習生が突然失踪したり、実習期間途中で帰国を希望するケースもあります。背景には、職場環境や人間関係の問題があることが多いです。

対応策:
・日常的なストレスチェック
・第三者(監理団体、通訳者)との面談機会の提供
・早期の問題発見と対応

トラブル発生時の対応フロー

  1. 事実確認
    感情的にならず、冷静に状況を把握します。実習生の話を直接聞くことが重要です。
  2. 記録の保存
    会話内容、日時、関係者などを記録しておきましょう。後の証拠になります。
  3. 監理団体への連絡
    制度的な助言や正確な通訳・翻訳を受けられます。
  4. 必要に応じて関係機関へ相談
    労働基準監督署、外国人技能実習機構(OTIT)、入管などに相談することで、適切な対応が可能になります。

トラブルを未然に防ぐための工夫

  • 来日目的の明確化
    技術の習得や他文化他習慣の経験等、何故、どうして来日するのか確認し自覚を促す。決意を再認識させる。
  • 受け入れ前のオリエンテーション
    制度や職場ルールを多言語で説明し、期待値を合わせる。
  • 独りにしない施策
    1入国につき2人以上で設定する。入国後は自然にコミュニケーションが取れるイベントを定期的に開催する。
  • 定期的な面談・ヒアリング
    実習生の不安や不満を早期に把握する。
  • 社内ルールの多言語化
    掲示物やマニュアルを母国語で用意する。
  • 相談窓口の設置と周知
    「困ったときはここに相談できる」という安心感を提供する。
  • 信頼関係の構築がトラブル防止の鍵
    実習生は会社の一員です。文化や言語の違いを乗り越え、互いに尊重し合う関係を築くことが、トラブルの予防につながります。例えば、誕生日を祝う、母国の文化を紹介するイベントを開くなど、小さな配慮が大きな信頼につながります。

まとめ

外国人技能実習制度は、適切な運用と理解があれば、企業にとって大きな力となります。トラブルは避けられないものではなく、対応次第で信頼関係を深めるチャンスにもなります。
中小企業の皆様には、制度の正しい理解と、実習生との丁寧な関わりを通じて、より良い職場環境の構築を目指していただきたいと思います。

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