第5回|外国人技能実習生の失踪を防ぐ方法 企業ができる失踪対策

はじめに:なぜ今、失踪防止が重要なのか

企業にとっても深刻なリスクとなる技能実習生の失踪。その原因と防止策を徹底解説!
近年、実習生の「失踪」が社会問題となっており、制度の信頼性を揺るがす要因となっています。特に中小企業にとっては、失踪による人手不足や監理団体・行政からの指導リスクなど、経営面でも大きな影響を及ぼします。
本コラムでは、失踪の背景を理解し、企業としてどのような対策が可能かを、制度的視点と現場の工夫の両面からご紹介します。

失踪の主な原因とは?

実習生が失踪に至る背景には、以下のような複合的な要因があります。

失踪理由原因
過酷な労働環境・低賃金・最低賃金ギリギリ、もしくはそれ以下での給与、長時間労働やサービス残業
・安全対策が不十分な職場や、労災隠し
・母国での約束と実際の労働条件が異なる
パワハラ・人権侵害・上司や同僚からの暴言・暴力
・プライバシーが守られず、寮での監視や外出制限などの行動制限
・パスポートや在留カードの不当な取り上げ
日本語や制度理解の不足・日本語能力が十分でないために意思疎通が困難
・自分の権利(労働基準法、労災保険、相談機関など)について正しい情報を知らない
・トラブルが起きても相談先が分からず孤立
管理体制の不備(監理団体・送り出し機関)・監理団体が実習先企業のチェックを十分にしていない
・書類審査が形骸化しており、実態が把握されていない
・送り出し機関による過度な費用負担や借金を背負わせるケース
実質的な出稼ぎ目的との乖離制度上は「技術移転」「人材育成」だが、実際は安価な労働力の確保が主目的としてしまっている監理団体や企業が存在し、実習生も本音では「技能取得」より「稼ぎたい」という目的が強く、安直に考え、より高収入を求めて失踪→非正規就労へ流れるケースがある。
制度そのものの構造的な矛盾・基本的に職場を自由に変えられない=劣悪な環境でも辞められない辛さがある
・在留資格が企業に依存しており、不満解消方法が「逃げるしかない」となる
・制度設計上の法的保護や「研修」・「教育」が浸透していない

これらは制度上の問題もありますが、監理団体を含めた受け入れ側の「配慮不足」や「情報不足」に起因することも考えられます。

制度的な対策と企業の責任

技能実習生の保護と失踪防止のため、以下のような制度的対策を講じています 。

  • 監理団体による定期的な巡回指導
  • 実習実施者(企業)による適正な労務管理
  • 母国語での相談窓口の設置
  • 技能実習計画の適正化と実施状況の報告義務

企業はこれらの制度を理解し、実習生が安心して働ける環境を整える責任があります。

企業が取り組みたい具体的な施策

制度だけでは失踪は防げません。
現場での「人としての配慮」が何より重要です。義務化済みの項目もありますが、「改めて」も含めて以下に企業で実践したい取り組みを記載します。

施策具体例
労務管理の適正化・実習計画・労働契約書を母国語で説明・交付
・最低賃金+αの賃金水準を提示し、正当な残業代支払い
・時間外労働の適正化
・長時間労働や過剰な作業の見直し
コミュニケーションの強化・「異文化理解研修」や「簡易な日本語教育の工夫」の研修実施
・「外国人実習生と接するためのマナー集」などの社内資料作成
・定期的な1対1面談(月1回など)
・実習生用の匿名意見箱・チャットツールを設置
・記念日や成果発表などのポジティブな交流イベント
生活支援の充実・個人のプライバシー確保(個室、カーテン設置など)
・エアコン、Wi-Fi、鍵付き収納など最低限の生活インフラ
・ゴミの出し方、買い物、交通機関、病院の利用方法などの生活マニュアルの提供
・多言語での説明会(最初の3か月が重要)
教育・キャリア意識の醸成・実習で学んだ技能を写真・動画・レポート等で可視化
・修了後の進路やキャリアの展望についての相談機会を設ける
・小さな進歩でも褒める文化を構築
・「努力が報われる」実感を与える
制度対応と連携・監理団体との月例報告や監理団体の実地巡回で、実習生の実態を共有
・問題があれば転職(実習先変更)支援も視野に
・地元の国際交流協会・多文化共生センター・NPOなどとつながり、相談先や避難先を紹介
・緊急時の支援ネットワークの整備
補足:
施策を成功させるカギ
・「見せかけ」ではなく「本気の受け入れ」姿勢が伝わるかどうか
・実習生も企業も「選ばれる/選ぶ」関係であるという認識の転換
・単なる労働力ではなく、人として尊重する文化の構築

成功事例の紹介

ある地方の製造業では、実習生との「月1回の食事会」を通じて信頼関係を築き、5年間で失踪ゼロを達成しました。
別の企業では、実習生の母国語を話せるスタッフを採用し、日常的な相談体制を整えたことで、離職率が大幅に低下したという報告もあります。
日本人も外国人も同じです。気持ちが伝わる行動があると関係が修復・良化され、良循環が生まれることは多いようです。

まとめ:今後の課題と展望

2027年(令和9年)には技能実習制度から育成就労制度に移行します。
また、技能実習制度や育成就労制度から「特定技能」への移行で、長期間の就労が可能になります。
より長期的な人材育成と共生が求められ、企業にとっては、単なる労働力としてではなく、「共に働く仲間」として外国人材を受け入れる姿勢が重要になります。
外国人技能実習生の失踪防止は、制度の信頼性を守るだけでなく、企業の持続的な成長にもつながります。「気持ちと顔の見える支援」が、実習生の安心と定着を生み出します。

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