はじめに:どんな職種があるのか?
外国人技能実習制度は、日本の技術・技能・知識を開発途上国の人材に移転することを目的とした制度です。中小企業にとっては、慢性的な人手不足を補う手段としても注目されています。
2025年現在、技能実習制度で受け入れ可能な職種は91職種168作業にのぼります 。
これらは「移行対象職種」と呼ばれ、技能実習1号から3号まで段階的に移行できる職種です。主な分野は以下の通りです。
当社が考える業種・職種別注意点と将来性(2025年3月7日時点資料参照)
業種 | 職種名または作業等 | 注意点 | 将来性 |
---|---|---|---|
農業・林業 (3種類7作業) | 施設園芸、畑作・野菜、果樹、養豚、養鶏、酪農、育林・素材生産 | 季節変動による作業量の変化、安全管理と健康管理が重要 | 高齢化による人手不足、スマート農業の導入による教育高度化、特定技能との連携 |
漁業 (2種類10作業) | 延縄、いか釣り、まき網、刺し網、定置網、養殖など | 海上作業の危険性、天候や海況による技能習得の難しさ | 若年層の漁業離れ、海洋資源管理との両立が課題 |
建設 (22種類33作業) | さく井、建築板金、木製建具加工、型枠、鉄筋組立て、とび、左官、配管など | 就業方法や作業内容の標準化が難しい、労働災害リスクが高い | インフラ老朽化対策、高齢化、技術保持が課題、特定技能との連携 |
食品製造 (11種類19作業) | 食鳥処理加工、節類製造、くん製品、塩蔵品、発酵食品、パン製造、そう菜など | 衛生管理が厳しい、単調作業による技能習得意義の明確化 | 外食産業やコンビニ需要の拡大、自動化とのバランスが課題、特定技能との連携 |
繊維・衣服 (13種類22作業) | 紡績運転、織布運転、染色、婦人子供既製服、紳士服、カーペット、帆布製品など | 細かい作業で習得に時間がかかる、国内産業の縮小傾向 | 高付加価値製品へのシフト、海外展開企業との連携が鍵、特定技能との連携 |
機械・金属 (17種類34作業) | 鋳造、鍛造、ダイカスト、機械加工、金属プレス、工場板金、めっき、金属熱処理など | 高度な技能が必要、安全性確保が重要 | 製造業の中核分野、DXとの融合が進む、特定技能との連携 |
その他 (21種類39作業) | 家具製作、印刷、製本、プラスチック成形、塗装、溶接、工業包装、紙器、自動車整備、ビルクリーニング、介護、宿泊、クリーニングなど | 日本語能力とコミュニケーション力が重要、精神的負担への配慮、技能評価試験や実習可能期間に注意 | 特定技能制度との連携 |
外国人技能実習制度と特定技能の違い
技能実習制度と混同されがちなのが「特定技能制度」です。
両者は目的も運用も異なるため、企業が制度を選択する際には違いを理解しておく必要があります。
特定技能に関しては別の機会で掲載しますが、こちらの項でもサラッと触れておきます。
比較項目 | 技能実習制度 | 特定技能制度 |
---|---|---|
制度の目的 | 技術移転 | 人材確保 |
業種の数 | 91業種(農業・建設・食品製造など) | 16分野(介護・外食・宿泊・建設等) |
職種の特徴 | 細かく決まっていて、「この作業だけを学ぶ」というスタイル | 幅広く働ける。「接客も調理も掃除もOK」など柔軟 |
仕事の内容 | 技術を学ぶための仕事が中心で単純作業はNG | 実際の現場で働くための仕事。単純作業も一部OK |
例:外食業 | 技能実習では対象外 | 調理・接客・清掃など幅広く働ける |
例:介護業 | 介護技術を学ぶことが目的 | 介護職員として働くことが目的 |
例:建設業 | 型枠施工、鉄筋組立など細かく分類 | 現場作業全般に対応できる |
技能実習制度は「教育的要素」が強く、企業は実習計画を作成し、監理団体の指導のもとで運用します。
一方、特定技能は「労働者」としての受け入れであり、即戦力を求める企業に適しています。
技能実習制度の運用上の共通注意点
制度を活用する際には、以下のような注意点を押さえておく必要があります。
1. 実習計画の作成と審査
技能実習制度では、企業が「技能実習計画」を作成し、監理団体を通じて外国人技能実習機構(OTIT)に提出します。計画には、実習内容・指導体制・評価方法などを明記する必要があります。
- 審査基準は職種ごとに異なる
- 実習内容が単純作業に偏ると不認可の可能性あり
- 実習指導員の配置が必須
2. 日本語能力とコミュニケーション
職場での円滑なコミュニケーションには、日本語能力が不可欠です。特に介護や接客業では、一定の日本語レベル(N4以上)が求められます。
- 送り出し機関での事前教育の質が重要
- 現場でのOJTと並行して日本語学習支援が望ましい
3. 生活支援と定着支援
実習生は異文化の中で生活するため、企業側の生活支援が定着率に大きく影響します。
- 住居の確保と生活ルールの説明
- メンタルケアや相談窓口の設置
- 地域との交流機会の提供
4. 労働法令の遵守
技能実習生も労働者としての権利を有しており、労働基準法や最低賃金法などの法令を遵守する必要があります。
- 時間外労働・休日労働の管理
- 賃金の適正支払い(手取り額の明示)
- ハラスメント防止対策
5. 監理団体との連携
監理団体は制度運用の要であり、企業と送り出し機関の間に立って調整を行います。
- 定期的な実習状況の報告
- 実習生との面談・相談対応
- トラブル発生時の対応支援
まとめ:制度の理解が安定した受け入れにつながる
外国人技能実習制度は、制度の目的や運用ルールを正しく理解することで、企業にとって有益な人材確保の手段となります。受け入れ可能な職種は多岐にわたり、今後も制度の見直しや拡充が進む可能性があり、2027年には育成就労制度へ移行されます。
まずは特定技能制度との違いを理解し、自社のニーズに合った制度を選択することが重要です。
制度の運用には、監理団体との連携や実習生への支援体制の構築が不可欠です。
中小企業が安定した人材確保と職場の活性化を実現するためには、制度の本質を理解し、実習生を「育てる」姿勢で受け入れることが求められます。
制度運用は簡単ではありませんが、監理団体がしっかりエスコートしてくれますので、大きな心配は不要です。
外国人材の持続的な雇用をご検討ください。