はじめに:外国人技能実習制度における法的コンプライアンスとは
技能実習制度は、発展途上国に日本の技術や知識を海外に伝え、その国の経済発展に寄与する国際貢献の一環として位置づけられています。しかし、制度の運用においては、実習生の人権保護や適正な労働環境の確保が重要な課題となっており、法的コンプライアンスの徹底が求められています。制度違反による行政処分や受け入れ停止を防ぐために、企業が知っておくべき法的義務とは?
監理団体・実習実施者の法的責任
監理団体・企業の主な法的義務
義務項目 | 内容・具体例 | 違反時のリスク |
---|---|---|
労働条件の明示 | 実習生に対し、労働契約書や雇用条件通知書を母国語で交付し、賃金・労働時間・休日等を明確に説明する義務 | 行政指導、改善命令、監理団体の許可取消、実習実施者の受入停止処分など |
適正な賃金の支払い | 最低賃金以上の賃金を支払い、残業代も適正に支払うこと | 労働基準法違反による罰則、技能実習計画の認定取消、損害賠償請求の可能性 |
実習計画の遵守 | 技能実習計画に基づいた業務内容・教育訓練を実施すること | 技能実習法違反による認定取消、受入停止処分 |
実習生の人権尊重 | パスポートや在留カードの取り上げ、自由な外出の制限、暴言・暴力の禁止 | 人権侵害として刑事罰の対象、団体・企業名の公表、制度からの排除 |
監理団体による定期監査 | 実習実施者に対する3か月に1回以上の定期監査の実施 | 監理団体の許可取消、業務改善命令 |
苦情対応体制の整備 | 実習生からの相談・苦情を受け付ける窓口の設置と対応記録の保存 | 実習生の保護不備として制度違反と判断される可能性 |
個人情報の適正管理 | 実習生の個人情報を適切に管理し、第三者提供には本人の同意が必要 | 個人情報保護法違反、行政指導・罰則の対象 |
これらの義務を怠ると、監理団体の認定取り消しや企業への行政指導、受入れ停止に追い込まれることもあります。
技能実習生の権利と保護制度
技能実習生の基本的権利
権利項目 | 内容・具体例 | 違反時のリスク |
---|---|---|
適正な労働条件の保障 | 最低賃金の支払い、労働時間・休憩・休日の確保、残業代の支払い | 労働基準法違反による行政指導・罰則、実習計画の認定取消、企業名の公表 |
人権の尊重 | 暴言・暴力・セクハラの禁止、パスポートや在留カードの取り上げ禁止、自由な外出の保障 | 技能実習法違反、人権侵害として刑事罰の対象、制度からの排除 |
安全で衛生的な職場環境 | 労働安全衛生法に基づく設備・教育の提供、保護具の支給 | 労働災害の発生、企業の責任追及、監理団体の監査強化 |
医療・健康管理へのアクセス | 健康診断の実施、病気やケガの際の医療機関への受診支援 | 健康被害の拡大、監理団体・企業への行政指導 |
苦情申立て・相談の権利 | 外国人技能実習機構や監理団体への相談、母国語対応の窓口の設置 | 苦情対応不備による制度違反認定、監理団体の許可取消の可能性 |
個人情報の保護 | 実習生の個人情報を適切に管理し、本人の同意なく第三者提供しない | 個人情報保護法違反、行政指導・罰則の対象 |
在留資格の維持 | 技能実習に必要な在留資格の維持と更新支援 | 不法滞在のリスク、実習継続不可、企業・団体への責任追及 |
至って当たり前の権利が保障されています。
実習生も日本人と同様に納税し、社会保険にも加入しています。参政権以外は日本人と同様の権利が保障されています。
実習生がトラブルに巻き込まれた場合には、外国人技能実習機構(OTIT)や労働基準監督署などの支援機関に相談できます。
コンプライアンス違反の事例と教訓
違反内容 | 実際に起きたこと | 教訓 |
---|---|---|
最低賃金未満の支払い | 縫製業で月額10万円以下の賃金しか支払われず、残業代も未払い。労働局の是正勧告後、監理団体の許可が取り消された。 | 賃金台帳の不備や監査体制の甘さが制度からの排除につながった。定期監査と記録管理の徹底が必要。 |
パスポートの取り上げと外出制限 | 実習生のパスポートを預かり、外出を制限。実習生が逃亡し保護団体に保護されたことで発覚。監理団体は許可取消、企業は受入停止処分。 | 実習生の自由と尊厳を守ることが不可欠。人権教育と監理団体の監査強化が求められる。 |
技能実習計画と異なる業務への従事 | 食品加工業で、計画にない単純作業(梱包など)ばかりを実習生に従事させていた。外国人技能実習機構の監査で発覚し、認定取消。 | 実習計画の遵守は制度の根幹。業務変更時は正式な手続きが必要。監理団体の事前確認が重要。 |
不適切な解雇 | 経済的理由を口実に契約途中で解雇し、帰国を強要。労働局が介入し、企業に再雇用と損害賠償を命じた。 | 解雇には正当な理由と手続きが不可欠。制度の信頼性を損なう行為は行政処分の対象となる。 |
企業が取り組むべきコンプライアンス体制の構築
企業のコンプライアンス強化策
施策 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
社内教育の実施 | 技能実習制度に関する法令・人権・労務管理の知識を社員に教育する | 新入社員・現場責任者向けに「技能実習制度研修」を年2回実施。eラーニング教材の導入。 |
技能実習計画の適正管理 | 実習内容が計画通りに実施されているかを定期的に確認・記録する | 実習日報の作成、月次レビュー会議の開催、監理団体との連携による業務内容の確認。 |
外部監査の導入 | 第三者による監査を受けることで、制度運用の透明性を確保する | 社労士や行政書士による年1回のコンプライアンス監査を実施。報告書を社内共有。 |
実習生との定期面談 | 実習生の声を直接聞き、問題の早期発見・対応を図る | 月1回の個別面談を実施し、通訳を同席。面談記録を監理団体と共有。 |
苦情受付体制の整備 | 実習生が安心して相談できる窓口を設置し、対応履歴を管理する | 母国語対応の相談窓口を設置。LINEやメールでの受付も可能にし、対応履歴を保存。 |
労務管理のデジタル化 | 勤怠・賃金・契約管理をシステム化し、記録の正確性を確保する | 勤怠管理システムを導入し、残業時間・賃金支払い履歴を自動記録。監査時に活用。 |
人権尊重の社内方針策定 | 実習生の人権を守るための社内行動指針を明文化する | 「技能実習生の人権尊重に関する社内方針」を策定し、全社員に周知。違反時の対応も明記。 |
これらの取り組みにより、実習生との信頼関係を築き、制度の健全な運用が可能になります。
行政処分等(参照元:外国人技能実習機構)
監理団体に対する指導監督
- 主務大臣である法務大臣と厚生労働大臣には、監理団体の許可に関する業務について、実習実施者や監理団体等に対し、報告の徴収、帳簿書類の提出若しくは提示の命令、出頭の命令、質問又は立入検査を行う権限が認められています。
- また、機構や主務大臣による調査等によって、技能実習法、出入国又は労働に関する法令等に違反していることが判明したときであって、監理事業の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、主務大臣が改善命令を行う場合があります。
- さらに、一度許可を受けた監理団体であっても、許可基準を満たさなくなった場合、監理団体が欠格事由に該当することとなった場合、許可の条件に違反した場合、改善命令に違反した場合、入管法令や労働関係法令に違反した場合等には、許可の取消しの対象となります。
- なお、監理団体が、許可の取消事由(欠格事由を除く。)に該当することとなった場合においても、主務大臣は、違反の内容等を考慮した上で、許可の取消しではなく、期間を定めて監理事業の全部又は一部の停止を命ずることがあります。
- このような報告徴収、改善命令、事業停止命令、許可の取消しといった指導監督は、監理団体の違法行為の様態や悪質性などを踏まえて主務大臣においてどのような権限行使を行うか判断がされるものです。
改善命令や事業停止命令、許可の取消しといった重大な指導監督を受けないためには、常日頃から関係法令を遵守することはもとより、機構からの実地検査時の指摘等について迅速に改善を図ることが肝要です
実習実施者に対する指導監督
- 主務大臣である法務大臣と厚生労働大臣には、技能実習計画の認定に関する業務について、実習実施者や監理団体等に対し、報告の徴収、帳簿書類の提出若しくは提示の命令、出頭の命令、質問又は立入検査を行う権限が認められています。
- また、機構や主務大臣による調査等によって、実習実施者が認定計画に従って技能実習を行わせていないことが判明したとき、技能実習法、出入国又は労働に関する法令等に違反していることが判明したときであって、技能実習の適正な実施を確保するために必要があると認めるときは、主務大臣が改善命令を行う場合があります。
- さらに、一度認定された技能実習計画であっても、認定計画に従って技能実習を実施していない場合や、認定基準を満たさなくなった場合、実習実施者が欠格事由に該当することとなった場合、主務大臣が行う立入検査を拒んだり妨害等した場合、改善命令に違反した場合、入管法令や労働関係法令に違反した場合等には、認定の取消しの対象となります。
- このような報告徴収、改善命令、認定の取消しといった指導監督は、実習実施者の違法行為の様態や悪質性などを踏まえて主務大臣においてどのような権限行使を行うか判断がなされるものです。
改善命令や認定の取消しといった重大な指導監督を受けないためには、常日頃から関係法令を遵守することはもとより、機構からの実地検査時の指摘等について迅速に改善を図ることが肝要です。
2025年現在の最新動向
技能実習制度に代わる新たな外国人材の受け入れ制度である「育成就労制度」が徐々に進んで来ています。
育成就労制度は、人材育成と人材確保を目的としています。2024年6月に公布された改正入管法及び「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」(育成就労法)に基づき、2027年を目処に施行される予定です。
技能実習制度と育成就労制度の比較
項目 | 技能実習制度 | 育成就労制度(新) |
---|---|---|
目的 | 技術移転 | 人材育成・雇用安定 |
期間 | 最大5年(3号まで) | 原則3年 |
転職の可否 | 原則不可 | 一定条件下で可能 |
監理(支援)体制 | 監理団体中心 | 監理支援機関中心 |
まとめ
外国人技能実習制度は、国際貢献を目的とした重要な制度で、その運用には法的コンプライアンスの徹底が不可欠です。
制度の信頼性を守るためには、企業・監理団体・行政が連携し、実習生の権利を尊重した運用を行うことが求められます。新制度への移行を前にしていますが、より持続可能で公正な技能実習制度の構築が期待されています。
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